
演劇実験室◉万有引力◉第77回本公演
ヴァイオリン•カプリッチオ劇
鳥籠が鳥を探す・K
ーあなたの中で啀み合う二つの存在ー
『変身」 フランツ・カフカ』訳 高橋義孝
『フェリーツェへの手紙』 訳 城山良彦
『カフカ 「変身」 翻訳と注釈』 三原弟平
参考文献:フランツ・カフカ「変身」「フェリーツェへの手紙」
演出・音楽・美術:J・A・シーザー
構成台本・共同演出:髙田恵篤
◉公演日程◉
2024年11月27日(水)〜29日(金)
座・高円寺2
【出演】
髙田恵篤 ◉ グレゴール・ザムザ
伊野尾理枝 ◉ ザムザ家 母
小林桂太 ◉ フランツ・カフカ
木下瑞穂 ◉ エルザ
森ようこ ◉ フェリーツェ・バウアー
髙橋優太 ◉ 支配人 / 下宿人 / 婆さん
𫝆村博 ◉ ザムザ家 父
山田桜子 ◉ ザムザ家 妹 グレーテ
内山日奈加 ◉ ザムザ家 女中 アンナ
加藤一馬 ◉ マックス・ブロート / 下宿人
多治見智高ジーザス ◉ 演奏 (ヴァイオリン)

●劇中歌●
♪プロローグ
理由もなければ 原因もない
まるで当然のことであるかのように
運命は理解を超えて 突然決定する
いくら悲しんでみたところで
事実はあくまで事実なのだ
予感さえせず 信じられもせず
納得もしていない
しかしもう遅すぎる
もはやどうしようもない
恐ろしく孤独で奇妙な人生が
閉鎖された密室の中で始まる
不安 焦燥 心配 苦悩 絶望
救いもなければ 自由への道もない
不思議な騙し絵のように
そこはいつも薄暗い部屋であり
ぼんやりとしてよく見えない廊下である
曇りもせず晴れもしない
鳥は飛ばず花も咲かない
いつも暮れかけている風景がそこにある
♪ フェリーツェの歌
そう、彼はわたしを愛している
しかしそれはわたしには大きな不幸なのだ
そう、彼はわたしを苦しめている
ただわたしを愛しているからという理由のために
ほとんど毎日手紙がきて
それで死ぬほど苦しめられるが
二度目の手紙でそれを忘れさせようとする
どうして忘れられようか
たえず彼は謎のようなことを語り
打ちあけた言葉は理解できない
彼が言おうとすることは
書くことができない言葉かも知れない
お願いだから
そんなことはやめて
わかりやすく伝えて
彼はきっとわたしを苦しめるつもりはない
彼は誰よりもわたしを愛しているのだから
♪ まるで手に負えぬ鳥
翼の萎えている鴉
阻まれている広々とした天空
鴉にさえなれない見せかけの鳥
黒光りのする羽毛さえ持ち合わさない
灰のようにどす黒い
岩山の中にその身を消したいと願う
鳥が鳥籠を探し求めているのか
鳥籠が鳥を探しているのか
全く取るに足らない存在
どうかこんな鳥は見落としてください
♪ あなたは私の右肩にキスをする
私は優しくブラウスのそこを下げる
左の肩も同じように あなたはキスをする
私は優しくブラウスのそこを下げる
私の上にあったあなたの顔
私の下にあったあなたの顔
ほとんど剥き出しになった
私の乳房のそばで
あなたは安らぐ
♪ フェリーツェの歌
あなたは話すのとは違ったふうに書き
考えるのとは違ったふうに話し
当然な考え方とは違ったふうに考える
そしてそれは
もっとも深い闇のなかへとつづくだろう
あなたの中で戦っている二つの存在
ファウストとメフィストフェレスのように
そこには二人の戦士がいて
どちらか一方が決定的な一撃を与える
その戦いの中であなたは滅びるのだろう
あなたはほんの少ししか嘘をつかなかった
ほんの少しの嘘というものが存在しうるならば
嘘なしには平衡を保つことができない
あなたの小舟は大変壊れやすい
あなたは生きることのできない世界に落ち込むことだろう
あなたは遅すぎる 追放されている
終わりか、さもなければ始めである





